第11話 カナガワ地区大会、決勝!(中)

●INDEX
SECTOR-1:TAKUMI-1
SECTOR-2:AYUMI-1
SECTOR-3:RUNA-1
SECTOR-4:TAMAO-1
SECTOR-5:KANADE-1
SECTOR-FINAL:CLASSIFICATION(AFTER 7 Hours)

SECTOR-1:TAKUMI-1

エアロサンダーショットにアクシデント発生!
どうしてこういう時になるとボクって何にもできないんだよっ!

「どうしたっていうのさ!」

スタートから一時間過ぎ、みんなで交代で休憩をとることになったんだけど、ボクの番が終わったと思ったらピットが騒がしい。慌てて戻ると、右のリヤタイヤを交換し終わったところだった。

「シャフトは!」
「問題ないわ!」
「よっし、ピットアウト!」

サイレンとともに、《エアロサンダーショット・フルカウラーV》がピットを出てコースへと戻っていく。

「たま姉、何があったんだ?!」
「……小田原さんのチームのマシンを、《ショウナンナンバーズ》のトップフォースEvo.がかわそうとした」
「小田原さん、もう周回遅れなのか……。」
「そうしたら二台とも同じ方向に避けてしまって接触。」
「うわあ……。」
「で、ベアホークがスピンして止まったところにサンダーショットが」
「そうなんだ」

観客席を見ると、みんなの目線はボクらのマシンじゃなくて《ショウナンナンバーズ》のピットに向いている。

「あゆみちゃんがとりつけたカウルがタイヤを守ってくれたから、そんなに大きなダメージじゃないけど」
「ああ……。」

トップフォースEvo.はバンパーが大きくねじれてしまっている。VSシャーシの弱点、バンパーの強度不足が原因だろうな……。
もうねじれた部分は諦め、追加でプレートを取り付けようとしてる。これは時間のかかる作業になりそうだ。

「耐久レースって、ノートラブルじゃすまないからね」

ピットウォールから会長が下りてきた。

「涼川さんを休憩させたいんだけど、誰か代わりに入ってくれない?」
「じゃあ、ボクがいくよ」

考える間もなく手を挙げた。また、大事なところで何もできなかったんだから、こういうところで取り返さなきゃ。正直、ちょっと焦ってた。

「じゃあ、いきましょ」

ピットウォールのあゆみは、顔の前で手を組んでサンダーショットの動きを見つめていた。

「涼川さん、いったん休憩してきたら」
「会長……ありがとうございます」
「ボクに任せといてよ」
「ふふ……変なことしないでよ」
「あったり前だろ!」

意外にあっさりと、あゆみは席を立っていった。

「もう少しゴネるかと思ったけど」
「まあいいわ。それにしても先頭の《レジーナ・レーシング》のナイトレージは落ちてこないわね」
「一時間ちょい経って、ようやく一周差。それでもかなりプッシュしてるようですね……。」
「今後どうなるか、ね」

一方で、スタートから二位を走り続けている《スクーデリア・ミッレ・ミリア》、つまりエンプレスのフレイムアスチュートはたんたんと走り続けてる。

「うーん……。」

ピットウォールの席に座ってはじめて、たくさんの情報を見て、それをコントロールするのは難しいと、ボクは早くも思い始めていた……。

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 SECTOR-2:AYUMI-1

小田原さん、そんなに責任感じることなんてない。
レースなんだから、こういうことはつきもの。それよりも、大事なことは走り続けること!

あたしはロビーに出た。
同じように休憩してるチューナーでごった返してるけど、あたしが探してるのは一人だった。さっき、たくみの肩の向こう、ピットの奥に引っ込んでいくのが見えたから、こっちにいるんじゃないかと思って、その姿を探してる。

「小田原さん!」

浴衣姿は華やかだけども消え入りそうで、振り向いてあたしだとわかった瞬間、あたしの胸に倒れ込んできた。

「うええぇん、ごめんなさい……。」
「小田原さん、大丈夫よ」
「でも、私がゆっくり走ってたせいで三位のバトルがこんな風になっちゃって」
「大丈夫だって。こういうのをレーシングアクシデントっていうのよ」

実際、悪質な行為はペナルティの対象になるってレース前の説明でも触れていた。今回のアクシデントについては、何もアナウンスされていない。審議の対象にもなってないってことだ。

「それより、あなたたちのベアホークは?」
「もうダメです……。」
「ダメ? どういうこと?」
「さっきのクラッシュでドライブシャフトが曲がっちゃって。シャーシもダメージがありますし、最後まで走るのは無理、そうです」
「スペアは?」
「ドライブシャフトは今つけてるセットしかないんです……。ちゃんと用意しておかないから……。もう絶対に無理です……。」
「無理じゃない!」

叫んだあたしの声に、辺りが静まり返った。数十人の耳があたしの方を向いて、次に何を言うか、待っているのがリアルにわかる。でもそんな事はどうでもよくて、今は小田原さんにレースを捨ててほしくない、それだけを思っていた。

「まだ時間はあるよ。直せるだけ直してみてよ。最後までマシンが生きていれば、ビリだっていい、チェッカーを受けられる。完走になる。順位がつく」
「涼川さん……」
「でもやめちゃったらリタイヤ、それまでよ。そんなことは絶対にしないで! あたしと小田原さん、みんなで走ってるこの時間が、みんなの中に残ってほしい、そして形にも残ってほしいから!」
「……うん……。」

小田原さんはようやく自分で立ってくれた。軽く肩を叩く。

「ごめんなさい、涼川さん、本当にこんな……。」
「いいのよいいのよ。とにかく、今は走り続けようね!」
「はい」

静かになったロビーを、また話し声がみたしていく。うーん、みんなに聞かれちゃったみたいだけど、まあいいか。

ロビーにあるモニターに、レースのようすが映し出されてる。《ショウナンナンバーズ》のピットから、トップフォースEvo.が現れた。フロントバンパーは根本を残して切り離し、ローラーはプレートで支持する形になっていた。《バーサス》のサーキットに壁はないからローラーは要らないんだけど、コーナリング性能は改造の度合いによって変わってくるから付けないわけにはいかない。

「藤沢さんも……走って。走り続けて!」

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SECTOR-3:RUNA-1

わっ、志乃ぶちゃんのナイトレージにもアクシデント!
これで先頭に立つのは、あの赤いマシンです……。

トップフォースEvo.が私たちの後ろに下がってからは、志乃ぶちゃんの《レジーナ・レーシング》、エンプレスの《スクーデリア・ミッレ・ミリア》、そして私たち《すーぱーあゆみんミニ四チーム》が二周くらいの間隔で走り続けていました。

最初こそ余りうまくいかなかったけど、ピット作業もそれなりにできるようになってきたので、ひとまずは安心です。といいつつも半分の四時間が過ぎて、ちょっと眠くなってきたみたいで……。

「あーっ!」

でもあゆみちゃんの声が、私をレースに呼び戻してくれました!

「どうしました?!」
「ナイトレージのホイールが!」
「ホイール……?」

観客席が総立ちになる先、モニターには大きく車体を傾けたナイトレージJr.が映っていました。一コーナー、二コーナーを抜けたS字コーナーの二個目。「逆バンク」とも言われるコーナー、コースの外へ大径ホイールが転がっていきます。左のフロントが外れ、タイヤが3つになってペースが大きく落ちます。 いえ、ペースどころか走らせるので精一杯です。

「いいぞ、そのまま止まっちゃえ!」
「たくみ、口に気を付けな」
「あ、ああ、たま姉ごめん」
「ん、気持ちはわかる。ハイペースでとばしてたから、持たなかったんだな……」

赤いマシン、フレイムアスチュートがナイトレージの脇を駆け抜け、トップとの差は一周差、私たちの《フルカウラーV》も続けて通りすぎていきます。タイヤが二つになって、シャーシが路面をするようになったら、余りにも危険なのでリタイヤを指示されるかもしれません。でも何とかペースをコントロールして、ゆっくりとですが前に進んでます。

「これ……。見たことある……」

お母様に見せていただいたグランプリの映像。その中で輝いていたレーサーの一人。粗っぽい走りでしたが繊細で、でもとっても大胆。セルジナとは別のコースでしたけど、3輪になってしまっても、フロントウイングが吹き飛んでしまっても、最後まで走ろうとする気迫が、彼の走りからは伝わってきたのを思い出しました。

「お願いナイトレージ、我慢してあげて……」

私は胸の前で手を組んで、祈りました。ヘアピンカーブを何とかこなして、なだらかな右カーブ。

「ついに来たわね、秀美」

会長が腕を組んで言いました。フレイムアスチュートがナイトレージをかわしてトップへ。無理にペースをあげずに、変わった作戦もとらずに、ただただ同じペースで走り続ける。その積み重ね、ということでしょう。今のペースだと私たちも二位に上がることになりますが、エンプレスとの差は縮まりません。

そうしている内に、ナイトレージは何とかピットまでたどり着きました。ハイペースで逃げてバッテリーを余計に使う志乃ぶちゃんの作戦は、失敗しました。

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SECTOR-4:TAMAO-1

レースの残り時間は少ない。
生き残ることに集中するべきか、ここで勝負にでるのか……。あゆみの気持ちは。

フレイムアスチュートが先頭に立ってからの二時間余りは特に何もなく。逆に神経を少しずつ削り取られるような苦しい時間が続いている。

先に動いた方が負ける。そんな使い古された表現しか思い付かないくらい、二台の間隔はほぼ二周ついたまま。一方で後方ではマシントラブルが続発していて、二〇台のうち五台のマシンはピットから出てこられなくなっている。小田原さんのマシンもそう。何とかなおしてはコースに戻るけど、一周持たずにピットイン、の繰り返し。一方でルナ先輩のお友達?の《レジーナ・レーシング》、川崎さんは何とかコースにマシンを戻して8位まで挽回してきてる。でも最初に描いてた、ハイペースで逃げる作戦は完全に裏目に出た。

《ショウナンナンバーズ》、藤沢さんもクラッシュから復帰して三位まで戻ってきたけどアタイたちまでは一〇周以上の差がある。

「マッチレース……。」

無傷のフレイムアスチュートと、軽い接触のだけで済んでるエアロサンダーショット。マシンの速さは当然必要だけど、それ以上にアクシデントに巻き込まれない、巻き込まれても軽く済ますチカラ……。ありきたりな言葉なら《運》もまた必要と痛感させられる。

「でも、このままじゃ……」

あゆみが腕組みして、ピットウォールの椅子に背中を預ける。みんな疲れがピークに達していて言葉は少ない。でも、最後まで走る、エンプレスに追い付くという気持ちがチームをひとつにつなげてる。

アタイにはわかる。チームを作るまで、みんな一人だった。アタイたちは双子ではあるけど、こんな風だから学校以外では一緒にいることも少ない。でも、《すーぱーあゆみんミニ四チーム》のひとりになって、合宿にいって本音で語って、こうしてる時間が幸せだと思うようになった。

だから、だからこそ勝ちたい。ただのいい思い出で終わらせたくない。そして、この気持ちをいつまでも味わっていたい。

「そろそろピットね」

会長が声をかけ、アタイたちは準備に取りかかる。

「もう……ここまでかな」

誰かが言った。誰? こんな弱い言葉を口にするのは? たくみ? それともルナ先輩? まさか会長?

「何いってるの、あゆみ!」

会長が、あゆみの両肩を強くつかんだ。エアロサンダーショットにピットインの指示は出してる。もうすぐピットレーンに飛び込んでくるって言うのに!

「もう……勝負はついたよ。これ以上、マシンが壊れるのは見たくないよ。ゆのちゃんも……川崎さんも……みんなも……最後まで走り続けてほしいってだけで……」
「しっかりしなさい!!」

会長が突き放すと、あゆみは力なく尻餅をついた。そのまま座り込んで、立てない。

「みんな、秀美のことなら私の方がよく知ってる。私にかけてみない?」
「かけるって……」

さすがのルナ先輩も声が震える。
かき消すように、ピットインを告げるサイレンがなった……!

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SECTOR-5:KANADE-1

あゆみ、ごめん。
でも私はここまできたならチャレンジしたい。秀美に勝ちたい、そのための最終進化!《フルカウラーV-Z》!

ピットイン。

《バーサス》の筐体、ロックが外れてマシンがあらわになる。ルナ・たまお・たくみのピットワークも素晴らしく息が合ってる。バッテリーを交換し終わったところで、私は《フルカウラーV》に手を伸ばした。

「何をなさるんですか!」
「言語道断」
「会長はあゆみのサポート役だろ!」

3人がそれぞれに私を攻撃する。当然だ。

「どうせこのまま走ってても、秀美に追い付けない。でも何かやって失敗したとしても、後ろまでの差は大きく開いてる」

私はボディの後ろ、ウイング部分に触れた。後方に伸びたフィンの間、フラップ部分は別パーツになっている。

「だったら、仕掛けてみてもいいんじゃない?」

パキン、という小気味いい音ともにパーツが外れた。フラップを失ったフィンは、まるでドラゴンの頭に生えてる角のように、後方へ鋭く突き出している。

「会長、そんなことしたら……ん、んー、まあ、大丈夫か、そうか!」
「うん、ありがとう」

頷いて、立ち上がった。

「エアロサンダーショット《フルカウラーV》最終決戦仕様、《フルカウラーV-Z》!!」

私はマシンを《バーサス》にセットした。一瞬の読み込み時間を経て、異形のマシンを映したモニターに驚きの声が上がった。

「会長、ただパーツをとっただけじゃん」
「……安直」
「いや、違う。ウイングで生まれるダウンフォースを捨てて、空気抵抗を減らしながら車体全体でダウンフォースを生み出すってこと、ですよね会長」

あゆみが傍らで言う。

「そう、ひとつの狙いはね」
「ひとつ? 別に何かあるんですか?」

私は口元が震えるのを押さえられなかった。

「秀美を、ゆさぶらないと」
「ゆさぶる……。」
「あのコ、最後になるとどうしても緊張するんだか、あり得ないミスをする。だから自分のミスを計算にいれて少しでも多いリードをつくろうとする」
「自分のミスを計算に……。じゃあ揺さぶったって意味なくないですか?」
「そう、普通のレースならね。ただこんだけ走ってきて、マシンも人も壊れてきてる。その時に秀美が何をするか。ズルいかも知れないけど、そこからチャンスを見つけたいのよ」
「なるほど……。」
「何をするかは正直、どうでもいいの。私たちが『何かを仕掛けてきてる』ってことをわかりやすく伝えればいいだけ」

《フルカウラーV-Z》がコース上、バックストレートにかかったところで歓声が上がった。ダウンフォースの総量が減った分、立ち上がりの加速、最高速の伸び、あきらかに違う動き。その分高速の130Rではバランス悪く、シケインではタイヤが白煙を上げた。

トータルのタイムが出たけど、私は別のところ、赤いマシンのラップタイムを見つめていた。うまく気づいて反応してくれれば。

「秀美……。悪く思わないでね」

残りは一時間を切ろうとしていた。

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SECTOR-FINAL:CLASSIFICATION(AFTER 7 Hours)


P1 #1 Scudeira Mille Miglia (Yokohama)
P2 #30 Super Ayuming Mini4 Team (Yokohama)
P3 #4 Syonan Numbers (Syonan)

P8 #13 REGINA Racing (Kawasaki)
P20 #8 Team Merry-go-round (Hakone)

Time Remains: 55 minutes

VIRTUAL CIRCUIT STREAMER: <VS>